橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

『私だけの東京散歩 下町・都心篇』

一九九五年刊。もとは『週刊住宅情報』の連載とのこと。景気のいい時代には、こんな企画が成り立ったのだ。自分の住んでいる土地、あるいは思い出の地、憧れの地などを散歩するのは、春風亭小朝高見恭子荒俣宏、岸本加世子、村松友視いとうせいこう山口洋子など。そして写真は、荒木経惟、飯田鉄、高梨豊。豪華な顔ぶれだ。こうした街歩きの本は、写真を歩く本人が撮ったり、無名の写真家が撮ったりする例が多い。この本は、写真が本物だ。荒木は言うまでもないが、他の二人もいい。元はカラーだったらしいが、この本では白黒。むしろ良かったかもしれない。
見て楽しむのが第一だろうけれど、面白いことを書いている人も何人かいる。泡坂妻夫いわく「私はやっかいなことに東京の神田が故郷だ。とうに神田は人の住める土地ではなくなっている。故郷の川に帰りたくとも巨大な堰が作られてしまい、帰るに帰れない魚のようなものだ」。加太こうじは、金町から東京大空襲を、焼芋をかじりながら見物していたという。小沢信男上中里に住むが、ここは関東大震災でも東京大空襲でも焼けなかった場所だという。銀座は庶民の町で、路地裏でよく遊んだのにと懐しむのは、矢代静一
古書で入手可能である。