橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

岩渕潤子・ハイライフ研究所山の手文化研究会編『東京山の手大研究』

必要があって、再読。

いちばんの読みどころは、戦前期の東京帝大教授の地理的分布を図で示して、その変遷を明らかにした部分。帝大教授たちは、明治中期には主に本郷・小石川・牛込・四谷など都心の山の手に住んでいるが、日本橋や神田など下町の住人も3分の1ほどいる。ところが大正期になると、「帝大教授=山の手」という対応関係が明確になり、さらに昭和に入ると、北は練馬、西は三鷹・吉祥寺、南は成城・田園調布など、現代的な意味での山の手に広く分布するようになるが、下町の住人は皆無に近い。山の手住宅地のイメージの形成と拡大についての、貴重な知見である。

他の章は回想録とモノローグが中心。下町の出身である枝川公一によると、彼の出身校(現在の隅田川高校、もとの都立七高)には「僕は七高の一年生、彼女は白百合の一年生」という歌があったという。あこがれの山の手女子校との対比で、これもどこかで使いたいエピソードである。