永井荷風を読む2
川本三郎編のアンソロジーは、エッセイだけではなく短編小説、そして「濹東綺譚」「つゆのあとさき」などの小説の抜粋も含めた、まさに入門的アンソロジーだが、野口冨士男の編んだこちらは、エッセイに絞って体系的に集めたもの。上下二巻に分かれていて、この上巻は「日和下駄」を中心に、東京に関するエッセイを収めている。
なにより、「日和下駄」の全文が読めるところがうれしい。これを読むと、今日巷にあふれている東京散歩・東京徘徊ものエッセイのすべての原型がここにあるということがわかる。「およそ近世の文学に現れた荒廃の詩情を味わおうとしたらエジプトイタリーに赴かずとも現在の東京を歩むほど無惨にも痛ましい思いをさせる処はあるまい」(p.11)。多くの東京エッセイの基調にあるのが、この感覚であろう。安易に地域別に項を立てるのではなく、「路地」「閑地」「崖」などとテーマ別に東京のすみずみまでを論じていくところもすごい。東京論の原型であるだけではなく、ある意味超えることのできない到達点でもある。
荷風随筆集 上 日和下駄 他十六篇 (岩波文庫 緑 41-7)
- 作者: 永井荷風,野口冨士男
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1986/09/16
- メディア: 文庫
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