橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

2010-01-01から1年間の記事一覧

朝日新聞「ゼロ年代の50冊」

なぜか、拙著『「格差」の戦後史』が選ばれました。田中秀臣さん、三浦展さんなど、ネット界で疑問の声が上がるのも当然です。好意的に解釈すれば、格差関係の本が何冊か候補に挙がったものの、「代表作ではない」「結論の一部がすでに否定されている」「受…

『九段坂下クロニクル』

東京・九段下に、今川小路共同建築、通称・九段下ビルという建物がある。1927年の完成で、築後80年を超える長屋形式の耐火建築だ。戦前から戦後へと、多くの物語を育んできたに違いない建物だが、これを共通の舞台としたオムニバスマンガが本書。全四編。出…

成瀬巳喜男の墓

すぐ近所にあるとは知りながら、ついつい行きそびれていたが、今日になって初めて墓参りができた。砧公園にほど近い、世田谷区の円光寺にある。なんとなく、墓地の奥の方に鎮座しているものと思いこんで探し回ったが、実は墓地の入り口のそばにある。映画の…

藤井淑禎『高度成長期に愛された本たち』

著者は日本近現代文学が専門だが、大衆小説や映画を論じることが多い。しかもその視点は常に、敗戦から高度経済成長期の日本社会の変化をふまえたもので、ある意味で社会学的とも言える。このため以前から愛読していて、専門書以外はたいがい読んでいるので…

東京新聞写真部編『TOKYO異形』

かつて東京新聞に「東京oh!」という連載があった。東京のありとあらゆる場所から、不思議な空間や意外な光景を探し出し、巧みな構図で切り取った写真に、短い文章を配したというもの。都市風景写真が、時には鋭い文明批評になり、あるいは一種のアブストラク…

山同敦子『至福の本格焼酎・極楽の泡盛』『愛と情熱の日本酒』

近年の本格焼酎ブーム、日本酒ブームの立役者の一人、山同敦子さんの著書を二冊。 一冊目は、二〇〇二年に出版され、「村尾」「宝山」「佐藤」、そして黒木酒造の「百年の孤独」「山ねこ」をはじめとする一連の銘柄など、今日では広く知られている本格焼酎の…

西澤晃彦『貧者の領域──誰が排除されているのか』

著者は1995年、『隠蔽された外部──都市下層のエスノグラフィー』で鮮烈なデビューを飾った。その内向的でありながら輝きを放つ文体は、都市下層というテーマに実にふさわしく、当時まだ著書のなかった私は、この年下の著者に対して、秘かに嫉妬を感じていた…

千田有紀『女性学/男性学』

遠い昔の話だが、静岡大学教養部にいた頃、「女性学」の授業を担当していたことがある。女性学と題する授業科目が大学に置かれるようになって、さほどたっていない頃だったと思う。内容としては、ジェンダーの概念から始まって、家族、教育、労働、社会参加…

北大路魯山人『料理王国』

魯山人には全3巻の分厚い著作集があるから、当然何冊もの著書があるはずだと思っていたが、意外にも著書はこれ一冊だけらしい。 彼の料理論は、グルメマンガ『美味しんぼ』の、とくに初期の頃のタネ本で、かなりのエピソードがここから引用されている。たと…

近藤克則『「健康格差社会」を生き抜く』

著者は社会疫学の専門家で、「健康格差社会」という言葉の生みの親。これまでの著作は、良くも悪しくも地味な学術書スタイルだったが、今回は完全な啓蒙書で、しかもスタイルが堂に入っている。歯切れ良く、たたみかけるように事実を提示し、明確に結論する…

橋本健二編著『家族と格差の戦後史』

新刊です。私にとっては、初の「編著」となります。編者が実際にはほとんど貢献していなさそうな本をよく見かけますが、これは文字通りの編著で、全7章中、私が3つの章を書いています。他の執筆者は、佐藤香さん、元治恵子さん、小暮修三さん、仁平典宏さん…

佐藤忠男『大衆文化の原像』

アカデミックな研究の世界とは異なり、映画評論の世界では、国際的な評価というものが形成されにくい。大多数の評論家は、自国映画と外国映画を二つの柱とするわけだから、同じフィールドで活動しているとはいえない。英語圏以外の評論家の著作が、他国で読…

古賀邦正『ウイスキーの科学』

講談社の科学系新書・ブルーバックスの一冊。以前、同じシリーズの『ビールの科学』を紹介したことがあるが、これはサッポロビールの人が書いたものだった。こちらはサントリーの研究企画部長などを歴任した著者によるもので、ブレンドウイスキーの「響」を…

謹賀新年

本年もよろしくお願いいたします。 最近、更新回数が減っております。古い本を読むことが多くなっているのが一因ですが、今年は新刊紹介にも力を入れたいと思います。