橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

2009-01-01から1年間の記事一覧

塩見鮮一郎『貧民の帝都』

著者は、被差別民の歴史に関する著作で知られ、なかでも江戸時代の非人についての著作が多いが、本書の対象は近代で、幕末から敗戦後までを扱っている。 明治維新によって大名と家臣たちは地方に帰ったが、これによって江戸と地方の性格は大きく変わる。地方…

さいとうたかを『ゴルゴ13 真のベルリン市民』

このマンガ、以前は全巻持っていたのだが、本棚が狭くなったので処分し、それからあまり読んでいない。何となくタイトルにひかれて、久しぶりに買ってみた。一五二巻目とのことである。一〇〇巻を突破したのは、つい最近のような気がしていたのだが。 表題作…

川本三郎『今日はお墓参り』

田中絹代、有吉佐和子、成瀬巳喜男、長谷川利行、森雅之、芝木好子など、昭和文化を彩った十八人を取り上げ、その墓を訪問することを縦糸に、それぞれの短い評伝を一冊の書にまとめ上げるという、何とも心憎い企画である。 川本三郎の著書を読むときにはいつ…

鈴木琢磨『今夜も赤ちょうちん』

毎日新聞の名物記者、鈴木琢磨の名コラム「今夜も赤ちょうちん」が、ついに単行本になった。版元は、なぜか毎日新聞社ではなく、あまり聞いたことのない出版社。毎日新聞夕刊での連載は約一五〇回だったが、精選して七八本、これに「呑んべえ列伝」と題して…

不破哲三『マルクスは生きている』

少し話題になっている本である。読んでみると、「共産党も少し変わったな」と思わせる部分と、「やっぱり共産党は変わらないな」という部分がある。 変わったなと思うのは、まず恐慌に関する過少消費説と過剰生産説を組み合わせようとしているところ。しかも…

村瀬洋一・高田洋・廣瀬毅士編『SPSSによる多変量解析』

SPSSとは、Statistical Package fot Social Scienceの略で、統計ソフトの商品名。社会学ではスタンダードな存在で、利用者が多い。ところが、いい解説書が少ない。初歩的すぎて、すぐに役に立たなくなったり、逆に高度すぎて文化系人間には理解不能。心理学…

蜂巣敦・山本真人『殺人現場を歩く』

この本の分類は難しいが、都市論に入れておこう。東京および周辺で起こった殺人事件を取り上げて、その現場を淡々と描いていく。 犯罪そのものについての記述は、多くの場合、最低限に抑えられていて、この犯罪が起こった現場や、周辺の街の現況を描くことに…

古川緑波「ロッパの悲食記」

古川ロッパ(緑波)は、戦前から戦後にかけて、エノケン(榎本健一)と並び称せられた喜劇役者。しかし、エノケンが生粋の役者だったのに対して、ロッパは華族出身のインテリで、演劇・映画評論なども手がけ、著書もいくつかある。膨大な日記を残しており、これ…

落希一郎『僕がワイナリーを作った理由』

新潟市の西、かつて巻町といった場所に、カーブ・ドッチというワイナリーがある。落さんのカーブだから、カーブ・ド・オチ。著者は創業社長である。ワイナリーには、レストランやホール、温泉付きの宿泊施設があり、地元客だけでなく東京などからやってくる…

ヤナーチェク「シンフォニエッタ」

このCDが売れているらしい。ジョージ・セル指揮/クリーブランド管弦楽団の演奏である。自称「日本ジョージ・セル協会事務局長」の私としては、たいへん喜ばしい。 売れた原因は、村上春樹の新作に登場したこと。1990年にCD化されてから売れた総数が6000枚だ…

増田悦佐『東京「進化」論』

東京のさまざまな地域を取り上げて、その成り立ちや現在を語るという、この手の出版物はかなりの数に上る。しかし本書は、2つの点でかなりユニークだ。 まず、取り上げられている街の数が多い。普通この手の本では、主要な盛り場と、下町を中心に歴史的・文…

食楽責任編集『厳選!旨い居酒屋250店』

雑誌『食楽』の別冊で、創刊からの4年間に取材した居酒屋を厳選して集めたもの。正統派の居酒屋料理を出す風格ある居酒屋を中心に、郷土料理系、海戦料理系、銘酒系などを加えたラインナップで、全体にグレードはやや高め。その意味では『古典酒場』などとは…

吉見俊哉『ポスト戦後社会』

岩波新書の『シリーズ日本近現代史』全9巻の最終巻にあたる一冊。ここでポスト戦後社会というのは、著者によると、高度成長の終わった1970年代後半以降の社会のことである。70年代初めまでは、アジア規模でみるならいまだ「戦時」であり、日本も総力戦体制の…

共同通信社編『東京 あの時ここで』

「昭和戦後史の現場」という副題がつく。政治はもちろんのこと、犯罪や事件・災害、スポーツや芸能、建設工事、イベントなど広い範囲のできごとを、東京各所の現場に即して振り返っていくというもの。 よくありそうな企画なのだが、独自色もある。もともと共同…

阿刀田高「松本清張を推理する」

阿刀田高は「松本清張小説セレクション」全36巻を編集しているくらいだから、その作品を熟知していることは間違いない。本書は新書サイズの作品論なのだが、タイトルに「推理する」とある通り、作品の成立に至った過程や、清張の意図についての推理があちこ…

小林信彦『東京散歩 昭和幻想』

小林信彦は仕事の幅の広い人で、小説(しかもユーモア小説と純文学にまたがる)、大衆芸術論・芸能論、エッセイと各分野に多数の著作がある。しかもエッセイの中には、東京論と分類できる一連の著作があり、これを一つの分野とみることもできる。 この本は、複…

猪野健治『やくざ親分伝』

著者は、やくざに関する取材と研究では第一人者といっていいフリー・ジャーナリスト。多数の著作があるが、本書は日本の戦後史を彩った何人かの親分たちに焦点を当て、その生涯と人間像を描き出したもの。とくに、新橋の松田義一、新宿の小津喜之助、浅草の…

鹿島茂「平成ジャングル探検」

前著『居酒屋ほろ酔い考現学』を書いていたとき、新橋駅前のヤミ市を再開発したビルのことを調べていて、鹿島茂が雑誌に書いた記事に行き当たった。博覧強記でもあり、しかもちゃんと取材して当事者の証言もとるという見事なもので、連載の続きも読みたいと…

ただいま移行作業中

「楽天ブログ」の使い勝手の悪さと、広告やジャンク的アクセス記録の多さに、耐えられなくなってきました。はてなダイアリーのサブアカウントを取得したので、近日中にこちらへ移行します。今後とも、よろしく。

『松本清張傑作短編コレクション 下』

三巻本の完結編。三章構成で、「タイトルの妙」「権力は敵か」に続いて、四人の松本清張賞受賞者の小文と、それぞれの推薦作(ただし「地方紙を買う女」は上巻に収録済み)が収められている。 「支払いすぎた縁談」は、没落豪農の社会的地位への執着が生んだ物…

『松本清張傑作短編コレクション 中』

宮部みゆき編集の2巻目。テーマは「淋しい女たちの肖像」「不機嫌な男たちの肖像」の2つ。宮部によると、夢が破れ己の居場所を失ったとき、女は不幸になるが、男は不機嫌になるのだとのこと。淋しいと不幸はちょっと違うが、別のところでは「運命に対して受…

『松本清張傑作短編コレクション 上』

空き時間を使って、松本清張を少しずつ読んでいる。何といっても、高度成長期を代表する作家だ。 宮部みゆきの編集したこの傑作集は、全3巻。全短編の中から、いくつかのテーマを設定して配列されたもので、上巻のこの一冊は「巨匠の出発点」「マイ・フェイ…

『昭和30年代・40年代の世田谷』

昭和ブームのせいか、こんな本まで出版された。世田谷区各地の古い地図と写真を集めて、当時の地域のようすを解説したもので、全159頁。 自宅の付近の写真も多く、経堂駅、すずらん通り商店街、農大通りなどの鮮明な写真がある。いまも営業している和菓子屋…

佐藤忠男『日本映画史・全4巻』

この世には、乗り越えることの不可能な著作というものがしばしば存在するが、本書などその典型というべきだろう。 合計すると、約1600頁。1巻から3巻までが年代別の通史で、19世紀の単純な写し絵から説き起こして、2005年までをカバーしている。とくに戦時下…

太田和彦『シネマ大吟醸』

居酒屋めぐりが好きな者にとっては、神様みたいな存在になってしまった太田和彦だが、実は日本映画通でもあることはあまり知られていない。 この本は、戦前の映画を中心に、一九五〇年代前半までの日本映画を論じたもの。居酒屋を論じるときの観察眼、そして…

いのうえせつこ『地震は貧困に襲いかかる』

いまから考えると、バブル景気とその余波に、最終的な終止符を打ったのは、阪神淡路大震災だったのではないかという気もする。被害の大きさだけではない。日本に深刻な貧困と格差があることを、世に知らしめたからである。 被害の大きかったのは、低地にある…

森永卓郎(監修)『物価の文化史事典』

最近、戦後史について書いているので、物の値段や賃金水準について調べなければならないことが多い。そのための定番は、これまで週刊朝日編集の『戦後値段史年表』『明治大正昭和 値段史年表』だったのだが、ここに新たな定番が登場した。 値段も高いが500頁…

太宰治『斜陽/他』

華族は、明治維新直後の1869年、従来の公卿と大名を、士族や平民より上の貴族的階級に位置づけるものとして設置され、さまざまな政治的・経済的特権を与えられていた。 士族が早い時期に特権を失い、単なる戸籍上の呼称となっていたのに対し、華族は貴族院議…

紀田順一郎『昭和シネマ館』

著者は博識で知られ、文学・風俗・歴史など広い分野で活躍し、推理小説も書くという、現代の「超人」の一人だが、今度は映画の本である。 自らが少年時代からリアルタイムで見た映画を中心に、戦後映画文化史を語っていく。とりあげられる映画は洋画が多いが…

高田里惠子『学歴・階級・軍隊』

丸山真男が東京帝国大学助教授だった1944年、徴兵されて二等兵になり、上等兵からいじめを受けたという話は有名だ。赤木智弘が「丸山真男をひっぱたきたい」というエッセイで紹介し、戦争になれば自分も丸山真男をひっぱたけるような社会になるだろうという…