橋本健二の読書&音楽日記

日々の読書と音楽鑑賞の記録です。

2008-01-01から1年間の記事一覧

佐藤拓『1万円の世界地図』

著者は1959年生まれの科学ジャーナリストとのこと。本書は世界各国の間の広い意味での富の配分と格差に関する統計を紹介するもので、所得、物価、税金、健康、識字率、教育など、幅広い問題を扱っている。ふだんから新聞や雑誌を読む人なら、半分以上くらい…

池波正太郎『おおげさがきらい』

著作集にも収録されなかった池波正太郎のエッセイを集めた5冊シリーズの1冊目で、1956年から67年までの文章を集めている。特にこの時期の著者に関心があるというわけではないのだが、表紙の写真の、著者に抱かれておとなしくしている猫の写真があまりにもチ…

門倉貴史『官製不況』

いま、いちばん速いペースで著書を量産している著者の一人といっていいだろう。エコノミストとはいっても、派遣労働者やセックス産業など、泥臭い問題にも関心をもつ幅広さがある。 本書も「官製不況」をキーワードに、日本企業のモラルハザード、ワーキング…

『セオリー2008 vol.2 高級住宅街の真実』

毎年、高級住宅地のランキングを作成しているムックの最新版。 東京と関西や名古屋は比較しようがないので関東だけを抜き出せば、1位田園調布、2位横浜山手、3位麻布といった具合。地域による経済格差の資料として使えないこともないのだが、データの制約が…

堤未果『ルポ 貧困大国アメリカ』

この本、だいぶ評判になっている。内容的には、以前取り上げた『アメリカ弱者革命』(海鳴社・2006年)の続編で、特に話題になった高校生に対する軍へのリクルート活動については、ほぼ同じようなことが書かれている。 今回新しく追加された内容で注目したいの…

山口瞳『江分利満氏の優雅な生活』

原著は1962年。解説で秋山駿が著者のことを「当代きっての風俗画家」と評しているが、まさにその通りで、昭和30年代のサラリーマンの生態を見事に活写している。 たとえば、平社員と課長はどこが違うかと問を立て、「収入?ご冗談でしょう」と前置きした上で…

湯浅誠『反貧困』

著者は『貧困襲来』という著書でも知られるが、反貧困運動の最前線に立ち続けている人物。私より10歳ほど年下だが、心から尊敬できる数少ない人物の1人である。 実践家であるだけではない。大学院の博士課程まで出た経歴を持ち、「貧困ビジネス」「5重の排除…

コリン・ジョイス『「ニッポン社会」入門』

1992年から日本に住むイギリス人ジャーナリストによる、抱腹絶倒の日本論。持ち前のユーモアセンスと豊富な日本体験がもたらした、傑作エッセイである。 日本人もなかなか気づかない洞察もあり、たとえば日本語の男言葉と女言葉について「外国の女優の吹き替…

『外食産業統計資料集2008年版』

図書館にあればいいのだが、ここまでマイナーな統計になると手近な図書館にはない。しかたなく、研究費で買った。 さまざまな官庁統計、シンクタンクや民間企業などが行った調査結果から、外食産業に関する数値を集めたもので、B5版627頁のボリューム。いま…

森まゆみ『懐かしの昭和を食べ歩く』

ご存じ森まゆみさんが、東京・横浜の老舗を食べ歩きながら、ご主人や女将さんに先代や創業当時の思い出話を聞くという趣向。ありがちな企画だが、さすが森さん、ツボを押さえたインタビューで読ませてくれる。 「予約なんぞは下町らしくないし」と満員の店を…

月刊アクロス編集室『「東京」の侵略』

今から20年ほど前、「第4山の手」という言葉が使われていたのをご記憶だろうか。小石川・本郷が第1山の手、牛込・四谷・麹町が第2山の手、杉並・世田谷・目黒が第3山の手、そしてその先の横浜市緑区・青葉区から町田市・多摩市・八王子市・立川市を経て所沢…

『ミシュランガイド東京2008』

こんなもの、買うつもりはなかったのだが、必要があって購入。はっきりいって、行ったことのある店は一つもない(笑)。しかし、食べたことはなくても、この本がけっこういい加減なものであるということはよくわかる。 まず、都心および準都心8区(品川・渋谷・…

加太こうじ『東京の原像』

加太こうじは、もともとは紙芝居作家だが、後に東京の庶民文化研究者となった人。この本は、明治から昭和初期の庶民文化の概説といったものだが、とくに「山の手と下町」の違いと対立関係について詳しい。 両者の気質の違いは、武士と町人の違いだとし、これ…

川本三郎『私の東京町歩き』

必要があって、再読。最近「居酒屋考現学」などというものをやっているが、これはその着想を得るきっかけの一つになった本である。 著者は東向島から鐘ヶ淵あたりを散策し、縄暖簾のやきとり屋に入ってビールを注文する。すると、隣の客が話しかけてくる。「…

山田太一編『浅草』

さまざまな文士や学者などが書いた浅草に関する小文を集めたリーディングス。編者が山田太一というのは意外な気がしたが、実は浅草生まれとのこと。 冒頭におかれた鳥居龍蔵の「人文地理上より見たる江戸と浅草」は、東京の地理的な特徴と浅草の位置を解説し…

川本三郎『ちょっとそこまで』

原著は1985年。『都市の感受性』『雑踏の社会学』などに続く、著者の都市論・紀行文としては初期に属するもの。 中野、阿佐ヶ谷、高円寺、小岩、亀有など、かつての郊外都市の良さを「どこにでもある匿名性」と喝破し、大きな盛り場に「群衆の中の孤独」があ…

岩渕潤子・ハイライフ研究所山の手文化研究会編『東京山の手大研究』

必要があって、再読。 いちばんの読みどころは、戦前期の東京帝大教授の地理的分布を図で示して、その変遷を明らかにした部分。帝大教授たちは、明治中期には主に本郷・小石川・牛込・四谷など都心の山の手に住んでいるが、日本橋や神田など下町の住人も3分…

サイデンステッカー『東京 下町山の手』

日本文化研究家のサイデンステッカーは、大の下町びいきだった。 浅草について書いた一文には、「日本のいわゆる知識階級の生活が、正気の沙汰ではなく、馬鹿馬鹿しくて仕方がなくなってきた時、時評のために、山と積まれた文芸雑誌のどれもこれもが、つまら…