2008-01-01から1年間の記事一覧
一九八〇年代末に始まり、小泉政権下で推進された、いわゆる「構造改革」路線・新自由主義路線が、実は米国からの圧力で進められたものだというのは、すでにいくつかの指摘がある。本書は、この米国の圧力が「年次改革要望書」というはっきりした形をとった…
この本も、日本に帰ったらすぐに読みたいと思っていた本。ちなみに、『暴走する資本主義』という書名は、すでに使われている(本間重紀著・1998年)。アンドルー・グリン『狂奔する資本主義』(ダイヤモンド社・2007年)の訳者に聞いた話だが、原書名の"Capitali…
すでにあちこちに書評がでているから、だいたいの内容についてはご存じの方も多いだろう。パリ滞在中にネットで書評を読み、日本に帰ったらまっさきに読まなければと考えていた本のひとつである。 世界的に進行し、とくに米国と日本で顕著な格差拡大について…
格差拡大と貧困の増大が社会問題になるなか、現代のマルクス系実践的左翼知識人の代表格ともいうべき二人による書き下ろし。マルクス主義を標榜してはいないが、実質的には若者に向けたマルクス主義の入門書である。「格差社会を変えるチカラをつけよう」と…
「メシの問題から見た昭和史と現代日本」という副題がつく。その内容は、第1部の「戦争の原因は貧困、では貧困の原因は?」というタイトルに凝縮されている。 これまでの代表的見解は、国内の人口増による貧困を重視するものと、階級格差の拡大による貧困を…
9月6日に日本に帰ってから、たまりにたまった数十冊の雑誌に目を通しているところ。今朝読んだのは、このDAYS JAPAN。相変わらずがんばっている雑誌である。どうして日本では、このような硬派のジャーリズムがメジャーにならないのか。実は、なりかけたこと…
今年のザルツブルク音楽祭では、5人の指揮者がウィーン・フィルを指揮した。登場順に、ピエール・ブーレーズ、ジョナサン・ノット、リッカルド・ムーティ、マリス・ヤンソンス、そしてエサ=ペッカ・サロネンである。 私が聞いたのはサロネンの指揮したコンサ…
今年のザルツブルク音楽祭に招かれた外来オーケストラのハイライトは、フランツ・ウェルザー=メストが指揮するクリーブランド管弦楽団のコンサート。プログラムは次の3つで、私が聴きに行ったのは、マーラー「大地の歌」を中心とするプログラムだった。ちな…
こちらは、音楽部門最大のイベント。ワレリー・ゲルギエフ指揮のロンドン交響楽団による、プロコフィエフの交響曲全曲演奏会で、しかも核になる交響曲第 5番を含むプログラムである。チケットは早々と売り切れたようで、発売直後にインターネットで日本から…
エジンバラ国際フェスティバルでは、演劇、音楽、ダンス、大道芸など、いろいろなジャンルの公演が行われるが、ダンス部門での呼び物のひとつが、このSteve Reich Evening。8月15日から17日まで3日連続で行われたが、私が見に行ったのは1日目。 スプリンクラ…
旅先で何か東京論の本を一冊、じっくり読みなおそうと考えたとき、すぐに思いついたのはこの本だった。 佐多稲子、永井荷風、高見順、伊藤整など数多くの作家たちの日記や作品を縦糸に、国家の政策や在野の社会運動を絡めながら、戦中から戦後にかけての東京…
パリの外周部には環状の自動車道が走っていて、これに沿って「ポルト・ド・○○」という地名が連なっている。ポルトというのは城門のことで、ここにかつての城壁都市の外周があったということがわかる。現在でもパリ市街は、ほぼこのとおりの範囲にある。城壁…
何をいまどき、という感もあるが、はじめて読了。 初版刊行が1903年ということもあり、理論的な水準からいえば、きわめて初歩的で、また天皇制と社会主義の両立を力説するなど、時代を感じさせる部分も多い。しかし、たいへん面白かった。個人の持つ技能につ…
岩波文庫の別冊として刊行された、近代日本文学の解説書。時系列通史のような無味乾燥な構成ではなく、立身出世の欲望、異界と別世界への願望、交通機関と通信手段という、三つの柱を立ててテーマ別に近代文学の数々の作品を論じていくという構成がユニーク…
これは、野口冨士男の編んだアンソロジーの下巻。テーマは東京論以外ということで、自分の生い立ちや身辺、文学者としての経歴について語ったもの、芸術論・文学論、性にかんする小論などを収めている。 とくに印象深いのは、2番目の妻で新橋の芸妓・八重次…
川本三郎編のアンソロジーは、エッセイだけではなく短編小説、そして「濹東綺譚」「つゆのあとさき」などの小説の抜粋も含めた、まさに入門的アンソロジーだが、野口冨士男の編んだこちらは、エッセイに絞って体系的に集めたもの。上下二巻に分かれていて、…
英国にいて、なぜこんなものを読むのかと思われそうだが、逆にいえば、日本にいるときは、他に読まなければならない本がたくさんありすぎて、なかなか読めないのである。どこか山奥の別荘でもあれば、読めるのかもしれないが、そんなものは持ち合わせていな…
エッセイを読むのは好きだが、リアルタイムで読むことは少ない。一般週刊誌や総合雑誌を毎回買うことはないし、単行本を買うのも、文庫化されてから、あるいは評価が出てきてからということが多いからだ。そもそも、身辺のことや文学・映画などについて書か…
2004年刊の文庫化。紙屋研究所の紙屋高雪さんが絶賛していたので、手に取ってみた。広島の被爆少女と、その家族たちの、美しくも哀しい物語である。 原爆投下の10年後の広島の川のほとり、「お前の住む世界はそっちではない」という声におびえる少女が、はじ…
これは、異色の対談。鈴木邦男は新右翼のイデオローグだが、「赤衛軍事件」で逮捕された川本に、ずっとシンパシーを感じ続けていたという。右翼とはいっても、偏狭なナショナリズムでも体制派でもなく、思想的にはともかく政治的にはむしろ左翼に接近する場…
『環境緑化新聞』という業界紙に連載されている東京本案内をまとめたもの。著者の主な関心は、時期的には明治、分野としては風景と文学にあるので、私とは少しずれるのだが、それでもずいぶん役に立つ。サッポロライオンの社史、『ビヤホールに乾杯』を取り…
博覧強記かつディレッタントだが、社会問題には一切関心を示さないという、あまり好きでないタイプのエッセイのはずだが、ここまでやられると脱帽である。 たとえば「筆名と異名」という一文では、筆名の付け方にもいろいろあるとして、たちどころに何十人も…
これは、重い本である。 川本三郎は1969年、朝日新聞社に入社。ただし就職浪人だったため、採用が決まった68年夏からアルバイトとして勤務していた。アルバイト期間中に安田講堂の攻防戦があり、先輩記者に誘われて取材に同行するが、シンパシーを感じる学生…
川本三郎は、ひとつのテーマにそって関係のある映画を次から次に紹介して論じていくというのをお得意にしているが、その随筆版とでもいうべきもの。 たとえば「ご飯好き」という一文では、阿川弘之、小島政二郎、子母沢寛、林芙美子、そして漫画の『孤独のグ…
私はときどき「橋本健二検索」というのをやる。Googleで「橋本健二」、これだと建築家の橋本健二さんが出てくることも多いので「橋本健二 階級」などと検索して、私に関する記事を探すのである。 いろんな記事を発見するのだが、先日見つけたのが「紙屋研究…
LP時代には聞いていたが、SACDで再入手。 1番がすばらしい。音色も美しく多彩。これまでルビンシュタインは、さほど音色の変化のないピアニストだと思っていたが、そんなことはない。SACDの最大の利点は、ソリストの音色の個性がはっきり出るところにあるよ…
これは2回目の文庫化で、初出は1979年。著者は長年にわたって町工場の旋盤工と作家の二足のわらじを履き続けた人物。町工場の日常と金属加工の現場、そして職人たちの克明な描写は、この人にしかできない。 著者は、「社会に対しても自分に対しても、辞める…
著者は1952年深川生まれの写真家で、1993年に木村伊兵衛賞を受賞しているとのこと。 子ども時代の思い出や、下町の日常や近年の変化をつづる文章と、街角の情景を捉えた写真を収めた文庫本。とくに商店には愛着があるようで、所狭しと商品の並ぶ雑貨屋兼煙草…
オープニングが有名だ。オレンジ色の夕日が大写しにされたあと、画面はクレーンにつり下げられた巨大な鉄球をとらえる。鉄球はゆっくりとコンクリートの建物に激突し、壁が崩れ落ち、ごう音が響き渡る。残されたがれきは、ブルドーザーによって片付けられて…
東京・板橋区の岩の坂にあったスラムで生まれ育った著者の回想録。これは、戦中・戦後のスラムを内部から記録した名著といっていい。 感動的なエピソードの数々をここで紹介するのは控えておいて、特徴を2点だけ記しておきたい。まず、スラムが朝鮮人差別と…